服を着なさい  1986.3.4 成増の自宅にて 森恵子


外は曇り空で、風が強く寒い日でしたが、部屋の中はストーブをつけているので、薄着でいられました。薫(長男一歳九ヶ月)は、パンツ一枚で庭に出ようと、ガラス戸に手をかけました。
私はそれを見て、
「薫、寒いから服を着なさい!」
と言い終わるか終わらないかのうちに、薫の手を捕まえて、服を着せようとしました。
薫は服を着るのを嫌がり、私の手を振りほどこうと、片手でガラス戸をつかみ、頑張ります。

「着なさい」「いやだ」「着なさい」「いやだ」と押し問答をしているのを夫(森章)が聞きつけて、
「何をやっているんだ?」
「外はすごく寒いから服を着せようと思って」
「そのまま外へ出せ。しばらくすると寒くなって、自分から着ようとするから」
半信半疑でつかまえていた手を離すと、嬉しそうにガラス戸を開けて外に出て行きました。
私は服を持って後ろに続きました。

それからほんの数秒後に、服を着せようとすると---
自分から手を通そうとしました。そして両手が通った後、
「あたかい!(暖かいのつもり)」
という言葉が薫の口から出ました。私はなんて無駄な労力を使っていたのでしょう。薫にとっても、早く庭に出たいのに、つかまえられて嫌だったでしょう。


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