春菊             森章


光が丘を去って、五年になりました。
子どもを遊ばせるために、〈広い公園〉の近くに、成増から田柄に転居したのが、長男(薫)が四才の時・十三年前でした。

成増では、借りた家の庭で、無農薬で有機栽培の野菜を作っていました。鶏を三羽飼い、その糞と、生ごみや落ち葉を肥料にしました。

堆肥の近くに生えてきた春菊は、すくすくと育ち、柔らかそうな淡い緑色でした。他方、肥料分の少ない地面から生えてきた春菊は、ずんぐりとして、濃い緑色でした。

食べ比べるため、お浸しにしました。〈すくすく育った春菊〉は、たくさん食べられました。

〈ずんぐりとした春菊〉をゆがいたとき、驚きました。強い菊の香りが、あたり一面に漂いました。ほんの少し口に入れるだけで、「きくぅー」と言う感じでした。親指の半分くらいで、「もういい」と思いました。

この時、(昔の記憶に残っている)香りのある〈わさび〉を探し回ったことを、思い出しました。本物が見つからなかったのです。

そうか!〈すくすく〉の方は肥料が効くので、土の微量成分を吸収している暇がないんだ!〈ずんぐりとした春菊〉は、太陽と地中のミネラルっをたっぷり含んだ「健康な野菜」なのだ。

野菜の生長にせよ、人の成長にせよ、ゆっくりと健康に育って欲しいものです。

特に乳幼児のときは〈豊かな環境(物・人)〉の中で、気持ちのよい人達に囲まれて、のびのびと育つことが大切だと思います。そのためには、親達ばかりではなく、行政諸機関も協力してほしいものです。


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